今回は、生まれてくる赤ちゃんの男子/女子の比について考えてみましょう。
みなさんは、男子と女子はほぼ同数、生まれると思っていませんか。しかし実際は、少し、男子が多く生まれるのです。
下のグラフは、日本における約140年間の男/女の比率の変化です。第2次世界大戦の終戦前後3年間は推計値ですが、残りは実測値です。
また、受精した時の受精卵の男女比も以前は男性が少し多いと言われていましたが、最近の研究では男女とも50%ずつと言われています。すなわち、受精した時には、50/50だったのが、生まれる時にはちょっと男性の割合が増えて51~52%(先ほどの表現ですと、図からもわかるように104%から107%)になるとされています。
今までの研究では、生物学的要因、環境要因、そして、社会的要因が生まれてきた赤ちゃんの性比に関与していると言われています。例えば、父親の年齢、戦争、地震、毒物、経済状況、政治などの要因が報告されていますが、詳しいことはよくわかっていません。
日本産科婦人科学会では、2007年から個々の生殖補助医療の治療結果を、インターネットを用いて登録してもらい、まとめてきました。この結果には、男子が生まれたのか、女子が生まれたのか、記載する項目もあります。このデータを用いて、生殖補助医療のどのような要因が男女比に影響するのか、私どものセンターの医師の協力で解析して、結果を下記の論文で報告しました。現在は電子版のみです。
今回、新しく分かったこととして、体外受精においては、精子の運動率が低いと男子が生まれる確率が低くなるという結果が出ました。具体的には、次のグラフをみてください。
精子の運動率が32%以下だと、出生男子の割合が通常の予測値より低い49.6%でした。この値は、運動率が高くなるにつれて上昇します。
どうしてこのような結果になったのか、まだその原因はわかりません。さらに研究を重ねて、いつか皆さんにその理由をお話しできればと思っています。
精子の運動率は、病気などの原因で突然低下しないとも限りませんが、一般的には、年齢が上がるほど運動率は低くなります。年齢が上がると単に妊娠率が下がるだけでなく、生まれてくる子の男女比にも影響してくるのです。
生殖補助医療はまだまだ、未知のところがあります。今回お伝えした精子の運動率以外にも、生殖補助医療に関連して男女比に影響するとされる要因がいくつかあることがわかっています。ですので、できるだけ、治療をしなくても自然に妊娠しやすい年齢のうちに、お子さんを持つことを考えていただければ、と思います。